結論として、「モノなしマルチ商法」とは、商品・サービスの販売を伴わず、投資や副業などの「もうけ話」だけを理由に人を勧誘し、加入金や紹介料でお金が動く仕組みを指します。商品という体裁すらないため、実態が無限連鎖講(ねずみ講)に近づきやすく、出資法や金融商品取引法などの規制に抵触するおそれもあります。消費者庁の統計でも、この類型で20歳代の相談が急増していることが指摘されています。本記事では、モノなしマルチ商法の見分け方と、勧誘を受けた・契約してしまった場合の対応を解説します。
モノなしマルチ商法とは何か
通常のマルチ商法(連鎖販売取引)は、化粧品や健康食品などの商品・サービスの販売を伴います。これに対しモノなしマルチ商法は、「暗号資産に投資すれば増える」「情報商材のノウハウで稼げる」「権利を購入すれば配当が得られる」といった形で、商品の実体を伴わない「もうけ話」だけを勧誘の中心に据えます。特定商取引法上の連鎖販売取引に該当するかどうかも実態次第であり、商品の実体がなく金銭の配当だけを目的とする組織であれば、無限連鎖講(ねずみ講)に該当する可能性もあります。両者の法律上の違いはねずみ講とマルチ商法の違い|無限連鎖講に該当するかの見分け方で整理しています。
なぜ「もうけ話」型の相談が増えているのか
消費者庁の令和2年版消費者白書は、商品を介さず投資や副業などの「もうけ話」で勧誘する「モノなしマルチ商法」について、20歳代の相談が増えており、20歳代の相談件数の構成比は2019年時点で2010年の3倍以上になったと分析しています(消費者庁「令和2年版消費者白書」マルチ商法に関するトラブル)。SNSやマッチングアプリを通じた勧誘との親和性が高く、対面での商品説明を伴わないぶん、勧誘から契約までのハードルが低くなりやすいことが背景にあると考えられます。マルチ商法全体の相談件数の推移はマルチ商法の相談件数統計でも確認できます。
モノなしマルチ商法の見分け方チェックポイント
1. 「商品」が実体を伴わない
権利、情報商材、投資枠、暗号資産のような、実際に手元に残らない・使用できない「商品」を提示された場合は注意が必要です。「これは商品ではなく権利だから規制対象外」といった説明は、規制を免れるための方便である可能性があります。
2. 収益の説明が抽象的・配当型になっている
「AIが自動で運用する」「システムが増やしてくれる」など、収益の仕組みが具体的に説明できない、または新規加入者の出資金がそのまま配当原資になっている場合は、実態が新規加入者からの金銭配当に依存している可能性があります。
3. 登録・許可のない事業者が出資や運用を募っている
不特定多数から出資や預り金を集める行為は、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律により、届出や免許のない者が行うことは原則として禁止されています。また、投資として金融商品の取引を募る場合は、金融商品取引業の登録が必要です。登録の有無が確認できない事業者からの「もうけ話」は、この点でも規制違反の疑いがあります。
4. SNS・マッチングアプリ経由の勧誘
知り合ったばかりの相手からSNSのダイレクトメッセージで「投資の勉強会がある」「一緒に始めよう」と誘われるパターンも典型的です。対面での説明が少ないぶん、他の情報源で事業者名や仕組みを裏付けることが難しく、被害に気づくのが遅れがちです。
契約前後で確認しておきたいこと
- 事業者名・所在地・連絡先が特定できるか(勧誘者の個人名だけしかわからない場合は要注意)
- 契約書面・概要書面が交付されているか(交付がなければクーリングオフ期間が進行しないと主張できる余地があります)
- 「絶対に儲かる」「元本保証」などの説明が、事実と異なる不実告知にあたらないか
- 目的を告げずに呼び出され、後から投資や副業の話をされていないか
目的を隠した誘い出しや不実告知は、連鎖販売取引に該当する場合は特定商取引法で禁止される勧誘行為にあたります。違法性が疑われる勧誘の具体的なパターンはマルチ商法の違法な勧誘と特商法の禁止行為で解説しています。
すでに契約してしまった場合の対応
- 契約書面・振込明細・勧誘時のメッセージ履歴を保管する
- 契約から20日以内であれば、書面によるクーリングオフを検討する(連鎖販売取引に該当する場合)
- 実態が無限連鎖講に近いと疑われる場合は、警察相談専用電話「#9110」への相談も検討する
- 判断に迷う場合は、消費者ホットライン188から最寄りの消費生活センターに相談する
20歳代など若年層の被害では、成年年齢引き下げの影響で未成年者取消権が使えないケースも増えています。18歳・19歳が使える制度については18歳・19歳がマルチ商法を契約した時の取消し方法で解説しています。国民生活センターにもモノなしマルチを含む相談事例が蓄積されており、国民生活センターのマルチ取引に関する相談情報で確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「商品ではなく権利の購入だから合法」と説明されました。信用してよいですか。
A. 名目上の説明だけで合法性を判断することはできません。実態として商品・サービスの提供がなく、新規加入者からの金銭配当が収入源になっている場合は、無限連鎖講(ねずみ講)や関連法令の規制対象になり得ます。契約前に消費生活センター等へ確認することをおすすめします。
Q2. 投資の勧誘なので、消費生活センターより金融機関の窓口に相談すべきですか。
A. まずは消費者ホットライン188から消費生活センターに相談することで問題ありません。投資詐欺的な要素が強い場合や実態がねずみ講に近い場合は、警察相談専用電話「#9110」への相談もあわせて検討してください。
Q3. モノなしマルチ商法は必ず違法なのですか。
A. 「モノなしマルチ商法」自体は法律上の正式な分類ではなく、実態によって評価が異なります。商品の実体がなく金銭配当のみを目的とする組織であれば無限連鎖講として全面的に禁止されますが、実態の判断は個別の事実関係によるため、疑わしい場合は専門窓口に相談してください。
出典・参考(一次情報)
- 消費者庁「令和2年版消費者白書」マルチ商法に関するトラブル(モノなしマルチと若者):https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/white_paper_116.html
- 国民生活センター「マルチ取引(各種相談の件数や傾向)」:https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/multi.html
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」連鎖販売取引:https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/multilevelmarketing/
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000195
免責事項
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的判断は弁護士等の専門家にご相談ください。特定の取引が違法かどうかは実態を踏まえた個別の事実関係により判断されるものであり、本記事は特定の結論を保証するものではありません。