マルチ商法(連鎖販売取引)のトラブルでは、被害者としての相談だけでなく、「自分が友人を誘ってしまった」「紹介した相手から返金を求められている」という勧誘した側の悩みも少なくありません。組織に言われるまま勧誘した場合でも、勧誘行為を行った本人に法律上のルールが適用されます。本記事では、勧誘してしまった側の法的な位置づけと、今から取るべき対応を解説します。

勧誘した個人も特定商取引法の規制対象になる

特定商取引法の連鎖販売取引の規制は、統括者や事業者だけでなく、勧誘を行う個人(勧誘者)にも適用されます。消費者庁「特定商取引法ガイド」の連鎖販売取引の解説にあるとおり、次のような行為は個人が行った場合でも禁止行為に該当し得ます。

  • 「会って話したいことがある」など、勧誘目的を告げずに呼び出す(目的隠匿の誘引)
  • 「誰でも簡単に儲かる」「損はしない」など、事実と異なる説明をする(不実告知)
  • リスクや解約条件など重要な事項をあえて伝えない(事実不告知)
  • 断っている相手に対して執拗に勧誘を続ける・威迫して困惑させる

違反行為の類型は特定商取引法が禁止する勧誘行為の解説でも詳しく整理しています。

勧誘した側に生じ得るリスク

リスク内容
契約の取消し・解除への対応不実告知等があった場合、勧誘した相手はクーリングオフや取消しを主張でき、その窓口として自分に連絡が来ることがある
損害賠償の請求違法な勧誘により損害を与えたとして、民法上の不法行為責任を問われる可能性がある
刑事上の責任実態がねずみ講(無限連鎖講)の場合、勧誘行為自体が処罰の対象になり得る
行政処分等への関与悪質な違反行為は行政の調査・処分の対象となり、勧誘者の行為が問題とされることがある

「上位会員に言われたとおりに説明しただけ」という事情があっても、勧誘行為を行ったのが自分である以上、責任を免れる根拠にはなりにくいと考えられています。

今から取るべき対応の手順

  1. 新たな勧誘を直ちにやめる(被害と責任の拡大を防ぐ最優先の行動です)
  2. 自分自身の契約について、クーリングオフや中途解約が可能か確認する(手順はネットワークビジネスの解約手順を参照)
  3. 勧誘した相手に事実を伝え、相手もクーリングオフ等の制度を使えることを案内する
  4. 勧誘時の説明内容・経緯・組織とのやり取りを時系列で記録に残す
  5. 対応に迷う場合は、消費者ホットライン188から消費生活センターに相談する

勧誘した相手から返金を求められたら

相手が支払ったお金の多くは組織側に渡っているのが通常であり、まず相手が組織に対してクーリングオフ・中途解約・取消しを行えるよう協力することが基本になります。勧誘時の説明に問題があった場合など、自分自身が賠償を求められる可能性もあるため、次の点に注意してください。

  • その場しのぎで「全額自分が返す」と安易に約束しない(約束の内容次第では法的義務として残ります)
  • 話し合いの内容はメッセージ等の記録に残る形で行う
  • 請求額が大きい場合や交渉がこじれた場合は、弁護士に相談する
  • 示談交渉の代行を名乗る弁護士資格のない業者には依頼しない(弁護士法72条に違反するおそれがあります)

国民生活センターには勧誘する側・される側双方の相談事例が寄せられており、国民生活センターのマルチ取引に関する相談情報が参考になります。

組織から抜けるときの注意

「辞めるなら紹介した人に迷惑がかかる」「違約金が発生する」といった引き止めを受けることがありますが、法定の解約権を制限する条項は無効とされる場合があります。退会・解約の意思は書面で明確に伝え、記録を残してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 悪意はなく、自分も儲かると信じて勧誘しました。それでも責任を問われますか。

A. 故意がない場合でも、説明内容が事実と異なっていれば民事上の責任を問われる可能性はあります。ただし責任の有無・範囲は事案によるため、具体的な状況をもとに専門家に相談してください。

Q2. 勧誘した相手がクーリングオフすると、自分の報酬はどうなりますか。

A. 契約が解除されれば、それに対応する報酬は返還を求められるのが一般的です。報酬の扱いは組織の規約と法令に照らして確認が必要です。

Q3. 自分も被害者だと思うのですが、被害の相談もできますか。

A. できます。勧誘した側であっても、自分自身が違法な勧誘で契約させられた被害者である場合は多く、消費生活センターでは両方の立場を前提に相談できます。

Q4. 警察に自首すべきでしょうか。

A. 実態がねずみ講など刑罰法令に触れる可能性がある場合の対応は、事実関係によって大きく異なります。判断の前に弁護士に相談することをおすすめします。警察への相談が向くケースと消費生活センターが向くケースの違いはマルチ商法は警察に相談できる?対象になるケースと相談窓口で整理しています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的判断は弁護士等の専門家にご相談ください。責任の有無や範囲は勧誘時の説明内容など個別の事実関係によって異なり、本記事は特定の結論を保証するものではありません。